住むもの

2011年9月28日
俺は、幽霊と住んでいる。
自分が悪いからと、お祓いをするでもなく、一緒に暮らして長い。
まあ、釈然としない事は、多々あるが…。
ある夜こいつは、長い髪をたらした間の目から、大量の涙を流しながら、「私は、お前のせいで死んだんだ。罪を償え」と訴えかけてきた。
俺は、その顔に見覚えがあったから、彼女のいう通りにしようと思い、今に至る。
最初の要求は、フレンチトーストだった。
幽霊の癖に飯を食うのは若干釈然としないが、仕方あるまい、と俺はせっせとこしらえた。
次の要求もまた、釈然としない。
酒を出せと言うのだ。
普段家では酒を飲まない俺だが、皮肉にも、神棚にまつっているボトルは少々ある。俺はその中から、女が好みそうな、くせはあるけどあっさりしている日本酒をチョイスし、おちょこについでやる。
この幽霊、酔うとからみ酒になるのがまたたちが悪い。
そもそも、亡くなったひとを成仏させる為の液体ではなかったのかい、神様よ。
ひとしきり酔っぱらい、絡み終わると、幽霊、な、なんと、お姫様だっこでベッドまで連れてけ、と言うじゃないか。
まあそんなに重いわけでもないし、それはそれで構わないんだが…。
いびき。歯ぎしり。
幽霊でもあんのかよ。
呪いとか以前に、そっちでうなされるわ。
…なんて毎日を、過ごしてたわけなんだが…
…今日になって、気づいてしまった事が、ある…。
いつも通り、へべれけの幽霊を、お姫様だっこした時だ…
…足が…

あるじゃないか!!

「なんだよお前!!さては生きた人間だろう!!」
俺は遂にキレた。

こいつは、俺の彼女だった。
だかある日、ふとした事で言い争いになり、彼女は
出ていったきり二度と戻らなかった。
自殺をはかったのだ。
だから、あの夜、俺は、すっかり、化けて出たのだと思っていた。しかし…

彼女が、やっと、口を開く。

「…結局、自殺は、未遂で終わったの。だけど、あたしは、死んだも同然な日々を過ごしていたわ。…あんたのせいでね!」

「俺のせいかよ!?」

「…足がないのは、だあれ…?」

…俺は、とっさに、自分の足元を見た。

…そして、すべてを、思い出した…。

「そうよ。そもそも、あんたが、あの言い争いの後に、この6階の部屋から、飛び降りたのよ…」

…そうだ、そうだったな…
「あたしもすぐに、後追いで、睡眠薬を沢山飲んで…だけど、死ねなかった…」
…そうだったのか…

「だから、またこの部屋に戻って来たのよ…降霊術を学んでから」

…それで、俺を、呼び出した、ってわけか。
まあ、自分が死んだのを忘れてた俺は、ふつうに暮らしてたつもりだったけどな。
…ああ、じゃあ俺いくわ。
その途端、空に吸い込まれる感覚が。
「…待って…!」

彼女、もう空に向かい始めた俺に、叫んでる。

「あの、言い争いの件は…!」

ああ、それだけは、ちゃんと譲りあって、和解してから成仏したいな。

彼女「12時台は…」

俺「8チャ」彼女「NH」



…来世で一緒になったら、テレビ二台買おうな。

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